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「・・・タマちゃん、少しは落ち着いた?」 あたしは答えられなかった。それどころじゃなかったというのもあるし、全然落ち着いてないというのもある。 どうにか家まで帰ってきたけれど、相変わらず頭がぼーっとしているというか、火照っている。 なんとか着替えだけして、あたしはすぐにユージくんにベッドに押し込まれた。 ・・・お父さんが留守にしていたので、帰ってくるまではとあたしの面倒を見ることにしてくれたのだ。 正直、それはそれでかなり困る。 「うーん・・・なんだろう。風邪? じゃないしなあ」 言いながら、ユージくんがあたしの額に手を伸ばそうとする。 反射的にあたしはそれから頭を遠ざけてしまった。 「?」 ユージくんが怪訝な顔をした。 「ね、熱はないと思うから・・・計らなくても大丈夫だよ」 「そう? ならいいけど・・・でも、顔赤いままだよタマちゃん? ちょっと待ってて、タオル濡らしてくるから」 そう言ってユージくんが部屋を出て行く。そこでようやく、あたしは大きく息を吐き出した。 良かった。ユージくんに触れられていたら、また熱を出してしまうところだった。 ・・・保健医の先生から聞かされた話は、色々な意味でショックな内容だった。 先生はあたしの体に起こっている異変の一つ一つを確認するように指摘して(死ぬほど恥ずかしかったけれど、えっちな漫画を見てしまったことも話した)、その上で、はっきりと言ったのだ。 欲情しているのだと。 ・・・つまり、性的な意味で興奮してしまっているのだと。 性の仕組みなんて保健の授業で聞いたこと以上の知識を持っていなかったあたしは、もう本当に色んな意味でショックを受けた。 当然それをどうすればいいのかわからなかったので先生に聞いてみたけれど、苦笑いを浮かべるばかりで、うやむやにされてしまった。 なんだかユージくんの方に意味ありげな視線を送っていたけれど、それがどういう意味なのかはユージくんもわかってないみたいだった。 あたしは布団の中で寝返りをうった。 ・・・なんだか、落ち着かない。 いや、落ち着かないというより・・・持て余しているような感じだった。 体の中になにか熱が篭もっていて、それが一秒と我慢せずに全身を駆け巡っているような感覚なのだ。 ・・・あ、また。 胸の先っぽと脚の間が、じんじんと痺れてきた。それと頭の中も。 けれど、どう対処すればいいのかがわからなかった。痛いわけじゃないし。そんなところに塗る薬も知らない。 ただ・・・体を動かしたいという欲求だけは、益々強くなった。 体には力が入らないのに、じっとしていられない。体の中の熱を発散したくてたまらない。 でも、どうすればそれができるのかがわからない。 欲情するって、こういうことなんだ・・・本当に、どうしたらいいんだろう。 何度も布団の中で体勢を変えていると、ユージくんが戻ってきた。 「タマちゃん、タオル・・・って、タマちゃん!?」 あたしの顔を見るや、ユージくんが駆け寄ってくる。 「さっきより顔熱そうだよ!? それに息も荒くなってるし! 病院行った方がいいって!」 ・・・こんな状態で病院なんかに行ったりしたら、それこそ恥ずかしさで死んじゃう。 あたしは首を横に振った。 「だ、大丈夫だから・・・病院には、行かなくても」 「でも」 「それより、ユージくん・・・お願い」 熱を帯びた頭で、けれどどうにかあたしはユージくんに言った。 「なんだか、さっきからおかしくて・・・胸、さすってて」 「胸? 苦しいの?」 「苦しいのとはちょっと違うんだけど・・・よくわかんない」 「うん、わかった」 あたしが言うと、ユージくんはあたしの額に濡れたタオルを置いた後、布団の上からあたしの胸に手を置いた。 ・・・全身に、もの凄い衝撃が突き抜けた。びくんと体が震える。 ユージくんはそのまま、ゆっくりとあたしの胸をさすり始めた。労わるような手つきで、更には心配そうな表情であたしの顔を見詰めている。 ・・・けれど、あたしはユージくんの顔を見返している余裕なんてなかった。 ユージくんの掌が胸の先端を行き交う度に、そこから頭へ、そして爪先まで、どうにも言い表せないなにかが走り抜けていく。 「タマちゃん、本当に・・・大丈夫なの? 病院行かなくても平気?」 「あ、ふぅ、う・・・うん・・・」 まともにものを考えられなくなりかけている頭で、それでもなんとか言葉を返すことができた。 ・・・なんなんだろう、これは。頭がぼーっとするどころの騒ぎじゃない。 体中の血液が一滴残らずそこに集中しているんじゃないかと思えるくらい、胸の先が熱かった。まるで今この時だけ、あたしの全部がその一点に乗り移っているような。 「あっ、うっ、んっ・・・」 胸から広がる刺激に頭がおかしくなりそうで、あたしはきつく目を閉じた。 ・・・変だ。もうあたし、なにもかも変だ。 じっとしていられず、体をもぞもぞと動かすと、ユージくんが手を止めた。 「た、タマちゃん? 本当にこんなんで平気なの? なにか薬とか」 「つ、続けて・・・お願い・・・」 ユージくんの言葉を遮って、あたしは懇願するような口調で言っていた。ユージくんは戸惑ったようだったけど、それでもまた胸をさすってくれる。 「あぅ、ん・・・!」 知らず、あたしは歯を食いしばっていた。きっとユージくんからすれば苦しそうな表情に見えるんだろう。 ・・・本格的に、頭がどうにかなりそうだった。さっきよりも明らかに息も荒くなっているし、ユージくんにさすってもらっている胸の先は充血し過ぎて痛みさえ感じるくらい。 「ゆ、ユージ、くん・・・」 熱でどうにかしてしまったのか、あたしは思わずユージくんの名前を呼んでいた。 「なに? タマちゃん?」 ユージくんが心配の籠もった声をかけてくれる。 ・・・その時、なにも考えられなくなっていたはずのあたしの頭の中に、ユージくんの顔が浮かんだ。 ただし・・・今目の前にいるはずのユージくんじゃなく、さっき思い浮かべた方のユージくん。 つまり、あたしに欲情している、ユージくんの顔が。 その瞬間、あたしは太腿の間になにか奇妙な感触が生まれるのを自覚した。 なに? もしかしてあたし・・・漏らしちゃったの? 慌てふためき、あたしは布団の中でそっちへと手を伸ばした。指先をそこに触れさせる。 その途端。 「ふぁ・・・あ・・・あっ・・・!」 触れた場所から全身の至る箇所へと、津波のようななにかが瞬時に広がった。熱だとか痺れだとか頭の中のよくわかんないものだとか、そういったものをあっという間に押し流す。 これは一体なんだろうと、考える余裕すらなかった。 「あっ・・・んっ・・・ユージくん・・・っ!」 なにも考えられない。頭の中が真っ白になる。 「タマちゃん!?」 布団の中でびくびくと体を震わせているあたしを見てか、ユージくんがあたしの名前を呼ぶ。 けれどあたしは答えられなかった。津波のようななにかにさらされたまま、呼吸をすることも忘れている。 ・・・しばらくして、ようやくそれはどこかへ行ってくれた。はあ、と自分でもびっくりするくらいに熱くなった息を吐き出す。 あたしはそのまま数秒ほど、放心したようにぼーっとしていたけれど、やがて目を開けてユージくんの顔を見た。 ・・・もの凄く心配した顔を浮かべて、あたしを見てくれている。 「・・・ありがとう、ユージくん。少し・・・楽になった気がする」 「ほ、本当に?」 ユージくんが表情を変えずに聞いてくるけれど、嘘じゃなかった。 まだいつも通りだなんて口が裂けても言えないけれど、それでもさっきまでのよくわかんない感覚は多少薄れていた。津波と一緒にどこかへ押し流されてくれたみたい。 その代わり、今度は更に体が重く感じるけど。 と、そこであたしは気付き、口を開いた。 「あ・・・あの、ユージくん。その、お願いがあるんだけど・・・」 「うん? なに? まださすってた方がいい?」 「う、ううん。それはもういいの。その・・・汗でびしょびしょだから、その・・・着替えを・・・」 「わかったよ。えっと、あのクローゼットだね」 どこかほっとしたような表情で頷いて、ユージくんがクローゼットへと近づく。 ・・・下着の感触が気持ち悪い。汗でべたべただ。剣道の稽古をしてる時よりも濡れてるような気がする。 特に下の方がひどい。さっきつい漏らしちゃったのかと思ったけれど、それも無理もないくらいに湿っていた。 着替える前にシャワーでも浴びた方がいいかなとも考えたけれど、まだだるさが抜けきっていなかったので諦めた。 「じゃ、ここ置いておくよ」 「うん。ありがとうユージくん」 あたしがお礼を言うと、ユージくんは部屋から出て行った。 ベッドから降りて、着替えるべく服を脱ぐ。案の定、下着は悲惨なことになっていた。 ・・・あれ? なんだろう。 これ、汗じゃないような・・・気のせいかな?
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ピンポーン 「はーい」 「おじゃまします」 「うん、はいってよ。タマちゃん」 ~ふたりの時間~ 「ふむっ、んんっ、じゅるるる」 珠姫の小さい口が勇二のモノを吸い上げる、珠姫は熱心に勇二を咥え勇二もまた気持ち良さそうな顔で 自分のモノをフェラチオしている彼女の顔を眺める。珠姫のが舌で亀頭を舐めると勇二は「うわ」っと ふがいない声をあげた。 「タマキ、出すよ」 「うん、んんっ」 射精が近づき勇二が声を出すと珠姫はそのままフェラチオを続けた。 「うっ」 「っ!!ケホケホっ」 「あ、タマキ大丈夫か」 「うん、大丈夫」 勇二の射精に咽た珠姫は口の前に手をやり、口に出された精液をそこに出すと今度はゆっくりとそれを 飲み干した。 「無理に飲まなくてもいいのに」 「今日はそんな気分だったから」 ちなみに、日によっては顔射や体に射精するよう要求してくる日もある。 二人が恋人同士になってから体の関係を結ぶのはそう時間がかからなかった、子供の頃から一緒にいる 分、信頼関係が元から築かれていた事からだろう。そして、今日は勇二の親は外出中ですくなくとも晩 になるまでは帰ってこない。二人はこうしたチャンスを見つけては蜜月の時間を堪能していた。そして この時間の間だけは二人は愛称ではなく本名で呼び合う。 「それにしても、ユウジは一杯だすね」 「ま、まぁね」 定期的に珠姫が抜きにくる為、すっかり自慰をするという習慣が減った為である。そして、勇二は基本 珠姫からの愛撫に対しては特に要求はしない(どうしてもさせたい時は頼む事はあるが)。今回のフェ ラの奉仕は完全に珠姫の気分で行われていた。 「じゃあ、今度は僕の番だね」 「うん」 と珠姫はコロンと横になった。カーテンでしきってはいるものの、まだ外は昼間なので白い素肌を晒し 産まれたままの姿の珠姫がよく見える。 「タマキ………」 「んっ………」 勇二はそのまま体を倒すと珠姫にキスをした、軽く唇を押し当てて舌を弱く動かしてお互い舌を絡み合 わせた。勇二は自分の精液の味がするが、そんなのは気にしない。すぐさま珠姫の味に変わるからだ。 勇二は腕を珠姫の脚に伸ばし、そのまま珠姫の秘所に手を伸ばした。そこはすでに蜜で濡れぬるりとし ていた。 「ふっ………」 勇二はそのまま、中指と人差し指をゆっくりと珠姫の中に沈めていき。そこで軽く指を曲げ、軽く擦り あげた。 「…………!!」 珠姫はビクリと体を奮わせた。が、それでも二人は唇を離さない。いまだ舌を絡ませている、そのため 二人の口角からは涎が少し溢れていた。勇二はそのまま指を動かし続ける、と珠姫は急にシーツを掴ん でいる手に軽く力を込め、少しするとスッと力を抜いた。 「タマキ、イッたね」 「うん」 ようやく顔を離れとツーッ唾液が糸を引き、プツリと切れた。また、勇二が責めていた秘所からも多量 の愛液が溢れてきた。すでに先ほどのフェラチオで体が出来上がりつつあった為、感じやすくなってい たのだ。 「ユージ…」 「ダメ、まだだよ」 と勇二は体を起すと、そのまま珠姫の脚を開いて剥き出しのまま愛液で潤っている秘所に顔を近づけた。 薄い珠姫の茂みがぐっしょりと濡れていた。 「ふぁっ」 軽く吸い付くと珠姫は高い声をあげた。勇二はそんな珠姫を無視するかのようにそのまま舌を伸ばし、 舌先でクリトリスを舐め始めた。そして、勇二はそれだけでなく両手を珠姫の小さい胸に伸ばし可愛ら しいその乳首を摘んだ。 「あっ…んん」 珠姫は脚こそ勇二の顔をはさむようにしているものの、力はそんなに入れてはいない。両手は彼の頭を 掴むわけでもなくそのままシーツを掴んで、なるべく力を入れないようにしていた。その為、時折勇二 が感じやすい珠姫のポイントをつくとそのまま高い喘ぎ声をだしてしまう。 「ジュルッ、ジュッ、ジュルル」 すでに珠姫の秘所に顔を埋めている勇二は珠姫の胸を責めつつ、秘所を舌で舐めまわし吸い付いていた。 勇二の愛撫に珠姫は次第にさらなる高みへ登り始める。珠姫の太ももがプルプル震え始めたのに勇二が 気付くと少し強めに乳首を摘んで、顔を上げた。 「あ………」 珠姫の秘所からピュピュっと潮が噴かれ、その一部が勇二の顔にかかった。 「ん、今度は大丈夫だったね」 「はぁ………もぅ、ユージ。あの時はたまたま……」 以前、こうした時思わず珠姫が失禁してしまい、珠姫の小水が勇二の顔にかかった事があり。勇二はそれ をからかうと、珠姫は赤い顔をしてぷぅっと頬を膨らませた。 「ごめんごめん、それじゃあさ…」 「………うん」 と珠姫は頷くと、両手を秘所にもっていって 「きて、ユージ」 くっと指でそのピンクの綺麗な割れ目を開いた。とろり、と蜜がシートにこぼれ汚した。 「んんんっ………!」 勇二のモノがずぷっと珠姫の中にゆっくりと入っていく、モノ自体は標準男子のそれより少し大きいくら いだが珠姫の体が元々小柄な為、慣れてはいても少しきついように感じられた。 「全部…入ったよ。タマキ」 「うん、ユージの熱いのが入ってるの感じるよ」 勇二は自分を全て珠姫の中に挿れると、そのまま軽いキスをした。そして珠姫に軽く腰をあげる様促すと そのまま、体重をかけて彼女の奥を突いた。 「あんっ」 可愛く珠姫が呻くとキュッと中が締まる。そして、勇二はピストン運動を開始した。珠姫は両脚と両腕を 勇二の腰に絡ませ密着度をあげる。勇二もそれに応えるかのように彼女を抱きしめる。 「ユージ、ユージぃ」 珠姫が囁くように勇二の名前を呼ぶ、勇二はそれを聞くとそのまま体を押さえつけて彼女を蹂躙したくな るが理性でもってそれを必死に押しとどめる。 「うう、ね、ぇ。私、も」 「うん」 と一旦動きを止め勇二が上体を起すと、珠姫はそのまま勇二の力を借りず筋肉の力だけで体を起した。 その為、自然に秘所に力が入り勇二のモノを締め上げる。膣内もぞわりと蠢くため、勇二は思わずイき かける。 「んん……それじゃあ、動くよ」 お互い見つめあい舌絡ませ合うキスを交わすと今度は珠姫が腰を使い始めた。以前として、両手両脚は 勇二の腰に巻きついている為、激しい動きはないがゆっくりとしたその動きは淫靡なものだった。 そして、珠姫は動きながら勇二の首に顔を擦り付ける。 (今日のタマキは甘えん坊だな) 珠姫から与えられる甘美な刺激を楽しみつつ勇二はそう思った。前戯の時といい、今といい今の珠姫は 完全に勇二に甘えていた。そもそも、繋がった時から両脚を腰に絡めるという行為事態が彼女にとって 甘えるという癖になっているのだ。騎乗位もいいが、彼女の香りと吐息を感じられるこの体位は勇二に とって最も好きな体位になっていた。 「タマキ…そろそろ」 「うん、いつでも、いいから」 ザワザワと勇二を締め付けながらも絡み付いてくる珠姫の膣内に勇二は二度目の射精に登り始める。 「私も、そろそろ………あぅっ!」 「出るっ!」 ビュビュっと二度目ながらも勢いよく飛び出た勇二の精液が珠姫の膣内を汚していった。 「あぁ、熱いよ…、ユージのが、ビュクビュクでてるの………」 「タマ、キ…」 二人はそう呟くと再び唇を合わせた。 「今日は、甘えんぼさんだったね」 「だって、最近練習づくしでエッチできなかったから」 勇二の腕の中で丸くなった珠姫はゴロゴロと猫のように勇二の胸に頬を擦りよせた。 あれから結局、後処理をするために秘所から溢れてくる精液をフキフキしていたのたがその都度珠姫が 可愛い声で鳴く為三回戦目に突入し、今に至った。 「そうだね、学校の剣道場は先生達に使われちゃってるからね」 これはもちろん紀梨乃と小次郎の事を指している。あの二人は生徒と教師の壁を越えて密かな交際をし ていて、主に学校の剣道場で体を重ねあっているのだ。以前、勇二と珠姫が剣道場でいたしていた時に 不意に入ってきて大層焦った事がある。(この時は用具入れに隠れてヤリ過ごした)なお、それだけで はなく、勇×珠・紀梨×小次郎・段×都が剣道場に集った事があるのだがそれはまた別の話。 (小次郎達が道場を勇ニと団十郎は男女それぞれの更衣室にいたため、バッティングする事はなかった) 「ねぇ、ユージ」 「うん?」 「好き、大好き」 「僕もだよ、タマキ」 二人の唇が重なり合う、四回戦副将戦が始まろうとしていた。
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私は室江高校一年九組に所属する女子生徒である。名前? 残念ながら名乗るほどのものじゃない。 入学してもう結構経つけれど、これといって友達らしい友達はいない。が、別に気にしてなかった。私にはあまり人様に言えるものではないけど趣味があって、それに没頭できてさえいればいいのだ。 まあ同じ趣味を持つ友人でもいたらそりゃ嬉しいところだけど、生憎とこの年齢でこういった趣味にハマっているということを大っぴらに話す女子というのは少ないだろうし、事実私自身、クラスメートに打ち明けたりはしていない。 ……私の趣味。それはアニメや漫画、特撮といった、一般的に「オタク文化」と呼ばれるものだ。サブカルチャー? そんな専門用語は知っている時点で既にアウトである。 あまり人とは話したがらない性格もあって、私には趣味を共有できる友人というのがいなかった。別にそれに不満を持っていたわけでもないんだけど。 最近になって、実はこのクラスにはもう一人、私と趣味を同じくするかもしれない女子生徒がいることに気付いた。 その名も、川添珠姫。 見た目は中学生か、あるいは小学生かと見間違えるほど小柄で童顔な少女。口数は私に負けず劣らず少なく、故に目立たない。 表情を変えることもあまりなく、他のクラスメートからはなにを考えてるのかよくわからないと思われているみたいだけど、あれはきっと単純に人との接し方を知らないだけだ。類友としてよくわかる。 ある時、私は彼女の鞄に付けられたいかにもそれっぽいアクセサリー(アニメかなにかのキャラクターを模した人形だった)を見て、つい話しかけてしまった。それ、なんのキャラクター? 「え? いえ、これは……」 急に声をかけられて(そりゃそうだ)彼女は戸惑ったようだったけれど、 「なんかのアニメかな。それとも特撮?」 重ねて聞いた私に、彼女の目の色が少しだけ変わったように思えた。 「あの、これはその、10年くらい前にやってた、ブレードブレイバーっていう作品の……」 ビンゴだ。最初は恐る恐るといった感じだったけれど、その『ブレードブレイバー』なる特撮について私に語るうち、彼女の口調にはどんどん熱が篭っていった。 ちなみにそのブレードブレイバー、私もタイトルだけなら聞いたことがあった。確か私達が幼稚園くらいの頃にやっていたバトルヒーローシリーズだ。私は三年前の『ホストマンZ』からハマり出したクチなので古い作品は知らないが、かなりのヒットを飛ばしたらしい。 「で、これは、その中のレッドブレイバーに似せて、人に作ってもらったあたしの人形です」 ほう。どうやら彼女には彼女の趣味を理解してくれる友人というのがちゃんといるらしい。羨ましい話だ。私なんぞは中学の頃にどっぷりとこの道にハマってからというもの、人に理解されたためしがないというのに。 「……えっ? どうしてですか?」 聞き返されてしまった。 ……この子、見た目もそうだけど、中身も相当に幼いんだろうか。このテの趣味は、ごく一般的な感性を持つ人間からすればイタいものとして扱われ、もうちょっと行き過ぎれば「ヲタ」のレッテルを貼られるのが常だというのに。 そういう常識を教えてくれる人はいなかったんだろうか。それとも、周囲がみんなそういった趣味を共有できる人ばかりだったんだろうか。……それも羨ましい話だ。ヲタでない普通の友人はいないの? 「え? い、いますけど……幼稚園の頃からずっと一緒の」 ほほう。それはいわゆる幼馴染みというヤツだろうか。一般人でありながらヲタと長年友人をやっていられるなんて、なんと出来た人だろう。是非私にも紹介してもらいたい。まあその人自身にそういう趣味がないならあまり意味はないかもしれないが。 ともあれ、それをきっかけに私とその少女、川添珠姫は少しずつ話をするようになった。 言うまでもなく、話題は専らアニメとか漫画とかコスモサーティーン(絶賛放送中)である。 そんな付き合いをしているうちに、私はこの少女がどんなキャラクターなのか、少しずつ理解していった。 一言で言えば、世間知らずだ。 取り分け男女の仲に介在する機微というものに疎く、なにか物凄く根本的な部分で性差というものを理解していない。同年代の男子が日頃どんなことを考えているものか、ちっとも把握していないのだ。 もっと言えば、男子というものを誤解している。思春期の少年が当然持っているであろう煩悩とかをまるっきりないものとして認識している節さえあった。 ……恐らく、両親から蝶よ花よと大切に大切に育てられたのだろう。まあこの小っこい背丈と全然発達してない身体つきを見れば、ご両親の気持ちもわからないでもないけれど。 趣味を同じくするものが増えたことで少しだけ心が広くなっていた私は、そんなふうに考えていたのだ。 ……のだけれど。 ある日の放課後、私は教室の入り口から知らない男子に声をかけられた。別のクラスの人だろうか。 「ちょっといいかな? タマちゃんいる?」 …………はい? 思わず口を半開きにして、私はその男子の姿を見返してしまった。 ぱっと見た限り、ヲタっぽさとは限りなく無縁な、爽やか好青年といった感じの外見だった。 華やかさという点ではそれほどでもないが(要するに地味ということだ)、しかし同年代の少年達にありがちな浮ついた雰囲気はカケラもなく、なんというか「近所のお兄さん」という表現がしっくり来る。 いや、それはいい。問題なのは、目の前のこの男子が口にした「タマちゃん」という科白だ。 それが川添珠姫を指す呼び名であることを、この時の私は知っていた。知っていたので、驚いたのだ。 ……だって、親しすぎる呼び方だ。一体この男子、ナニモノ? などと私が返答に困っていると、 「あ、ユージくん……どうしたの?」 こちらとは反対方向から、他でもない「タマちゃん」……つまり川添珠姫が姿を見せた。 ……ちょっと、待って。この子、今なんて言った? 「あ、タマちゃん。ちょうど良かった。今日の部活中止だって」 「……中止? どうして?」 「ミヤミヤの話によると、キリノ先輩とサヤ先輩が先生の後を尾けてたらしいけど」 「……それでどうして部活が中止になるの?」 「さあ? 俺もよくわかんないな」 二人のやり取りを、私はただひたすら呆然と眺めていた。 ……川添さん、普段と表情が全然違う。授業中とかと比べると、格段に豊かだ。それはつまり、この男子生徒……“ユージくん”とやらに、心を開いている、っていうことなんだろうか。 ていうか、「ユージくん」て。そして「タマちゃん」て。 下の名前で呼び合うなんて、余程親しくないとあり得ない行為だろう。それが男女となれば尚更だ。 彼女はそのまましばらく“ユージくん”と話していたが、やがて切り上げて教室へと戻ろうとした。「じゃあ、下駄箱で待ってるね」と“ユージくん”が言い残していったのが私としてはやたらと気になったのだが、それよりも。 「……川添さん。今の男子、誰?」 呼び止めると、彼女はこちらへと振り返り、あっさりと答えてきた。 「あ……今の人が、ユージくん」 いや、それは聞かなくてもわかる。私が聞いてるのはその“ユージくん”と一体どういう関係なのか、ということなんだけど。 「幼馴染みだけど……?」 稲妻が走った。というか落ちた。 ……なんてことだ。 じゃあさっきの男子が、彼女が常々口にしていた「幼稚園の頃からの幼馴染み」? 私はてっきり、女子だと思っていた。そう勝手に思い込んでいた。それなのにまさか……男子だったとは。 話を聞くと、なんでも家が近所のため昔からの付き合いで、彼女の趣味にも小さい頃から変わらず理解を示しているのだという。 それだけでも私にとっては脳天を鉄槌で一撃されたような事実だというのに、更に彼は見た目通りの爽やか系でおまけに頭も良くてしかも剣道の腕まで立つらしい。 ……そんな馬鹿な。そんな完璧な人間がフィクションでなく実在するなんて。その上それが幼馴染みだなんて。 その目に明らかな信頼の色(だけじゃないような気もしたが)を浮かべて先程の男子のことを説明してくる彼女の姿を見ながら、私は悟っていた。 ……私とは、生まれ持ったモノが違うんだな、と。 同じ趣味を持つもの同士、なんとなく通じるものがあると思っていたけれど、それは私の思い違いだったようだ。 なんとなく、虚しくなってしまった。
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アイテム コイン 更新 レッドジンジャー(家具) 50 2012/5/17 アラマンダ(家具) 500 2012/5/17 アンスリューム(家具) 500 2012/5/17 ブーゲンビリア(家具) 500 2012/5/17 ハイビスカス(家具) 500 2012/5/17 ジャスミン(家具) 500 2012/5/17 モカラ(家具) 500 2012/5/17 プルメリア(家具) 500 2012/5/17 バンダ(家具) 500 2012/5/17 おおきな葉っぱの敷物 200 2012/5/17 サムが愛する溜め池 30,000 2012/5/17 サムが愛する生い茂る池 30,000 2012/5/17 サムが愛する滝の水源 10,000 2012/5/17 サムが愛する滝の岩 5,000 2012/5/17 サムが愛する滝 15,000 2012/5/17 バオバブ 100,000 2012/5/17 セコイヤの巨木 100,000 2012/5/17 バナナ(家具) 1,500 2012/5/17 アイテム コイン 更新 モンパノキの木(家具) 1,000 2012/5/17 濃くて高いバンブー 1,500 2012/5/17 濃くて短いバンブー 1,000 2012/5/17 明るくて高いバンブー 1,500 2012/5/17 明るくて短いバンブー 1,000 2012/5/17 大きなガジュマル 15,000 2012/5/17 小さなガジュマル(家具) 3,000 2012/5/17 濃いマホガニーの木(家具) 1,500 2012/5/17 明るいマホガニーの木(家具) 1,500 2012/5/17 ヤシ(家具) 800 2012/5/17 ふつうの芝生/アジアン 30 2012/5/17 ふつうの芝生/ジャングル 30 2012/5/17 ふつうの芝生/トロピカル 30 2012/5/17 模様入り芝生アジアン 50 2012/5/17 模様入り芝生/トロピカル 50 2012/5/17 模様入り芝生/ジャングル 50 2012/5/17 クローバー入り芝生/アジアン 50 2012/5/17 クローバー入り芝生/トロピカル 50 2012/5/17 アイテム コイン 更新 クローバー入り芝生/ジャングル 50 2012/5/17 お花入り芝生/アジアン 50 2012/5/17 お花入り芝生/トロピカル 50 2012/5/17 お花入り芝生/ジャングル 50 2012/5/17 芝生・角丸/アジアン 50 2012/5/17 芝生・L字/アジアン 50 2012/5/17 芝生・角丸/ジャングル 50 2012/5/17 芝生・L字/ジャングル 50 2012/5/17 芝生・角丸/トロピカル 50 2012/5/17 芝生・L字/トロピカル 50 2012/5/17
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「えーとっ、飲み物何がいい?コーラと カルピスウォーターとウーロン茶あるけど」 「ウーロン茶をお願いします」 「ああ……取ってくる」 清村さんが部屋を出た後、私の視線は部屋の片隅にある書籍に注がれる。 書店名が記されたカバーのかけられたそれは、 この前この部屋を訪れたときには存在していなかったものだ。 (あれ……この厚さ…………) 手にとって開き、私は自分の想像が正しかったことを知る。 するとドアの向こうから足音が近づいてきたので 私は急いでその書籍を元の場所に戻し、正座して彼を迎える。 茶色い液体がなみなみと注がれたコップが置かれると、 部屋の主は緊張した面持ちで私の真向かいになるようテーブルに座った。 ウーロン茶を一口だけ飲んだ後、私は気まずい沈黙を破る。 「私……見たんです。清村さんが、女の人といるところを。 身長は清村さんと同じぐらいで、すらっと背が高くて」 「ああ、それは姉貴だよ、姉貴」 「……私、清村さんにお姉さんがいるなんて聞いたこともなかった」 「そういや、言ってなかったな。悪りいな、なんか誤解させて。 その、何でもするから許してくれ」 「食べさせてください、ケーキ」 「え?」 「始めて清村さんと公園ですごした時のように…… 食べさせてください、ケーキ」 「あ、ああ、わかった」 たどたどしい手つきで清村さんはケーキを切り分けると 柔らかいスポンジにフォークを突き刺そうとするが、私はそれを止めさせる。 「フォークじゃ駄目です」 きょとんとした顔の清村さんを正面から見返す。 「手で食べさせてください」 「て?」 「手でじかにケーキを摘んで……食べさせてください」 二人だけの部屋に、ケーキを咀嚼する音だけが響き渡る。 清村さんが手に持ったケーキを、私は口だけを使って噛み締め、飲み込む。 私が少し上目づかいで清村さんの方を見ると、 目の合った清村さんが視線をそらす。 2週間前、清村さんの家を始めて訪れた時の私なら彼のこの態度を見て 自分が避けられていると勘違いしていただろう。 でも、今ならわかる。 ――顔も見せてくれないほど嫌われるってのは、こたえるな―― 怖いのは私だけじゃない。相手が何を考えてるかわからなくて、 辛くて苦しくて押しつぶれそうになっているのは私だけじゃなかった。 ケーキを食べようとする私の唇が、スポンジを支える清村さんの指に触れる。 清村さんの指が離れようとするが、その手首を私が掴み阻止する。 「駄目……逃げたら私が食べられないですよ?」 そしてそのまま、クリームのついた清村さんの長い指を、 自分でもびっくりするほどいやらしい動きでねっとりと舐めあげる。 清村さんは大きく息を吸って私の舌の動きを眺める。 私は、まるで幼児がするように清村さんの左手の小指を第二間接まで 口に含んで音を立てて吸い上げた。 イチゴだけを残してほとんどスポンジを食べ終え、 私の口の周りがクリームだらけになる。 「清村さん、クリーム取ってください」 「…………あ、ああ、ティッシュティッシュ」 私の指の動きで金縛りにあっていたように動かなくなっていた 清村さんがあたふたとティッシュの箱に手を伸ばす。 だけど私は静かに首を横に振る。 「ティッシュは駄目です」 「……ああ、じゃあ」 指で私の口の周りのクリームを拭い取ろうとしたその指を止める。 「口で……舐めとってください」 「な……」 口をあんぐりと開け絶句する清村さんの前に、 私は自分の顔を差し出す。 清村さんがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。 心臓の音が高鳴って頬が真っ赤になるのがわかる。 いつもの私なら、こんな大胆なことなんて言えなかっただろう、できなかっただろう。 憧れていたタマさんがくれたまさかの褒め言葉に、 私は少し舞い上がってハイになっていたのだ。 「えっとその……いいの?」 「さっさとしてください。『なんでもする』んじゃないんですか?」 恐る恐る清村さんが口を近づけ、私の頬のクリームを舐めとる。 ざらついた舌が這い回るとただでさえ熱い私の頬がさらに高温になり、 頭に血が上りすぎて倒れそうになるほどだ。 だけどまだ足りない。 私はすっと清村さんの舌から顔を離す。 突然私から遠ざかれて清村さんは切なそうな表情を浮かべる。 もっと舐めていたい、彼の顔はそう物語っていた。 男の人の感情をコントロールできることに、私の心が怪しく昂ぶる。 私はスポンジの上に乗っかっていたイチゴを手に取り、 清村さんの口の中へ押し込む。 「……?」 狐につままれたように呆ける清村さんからケーキを取り上げ、 クリームやスポンジのカスにまみれた両手をぺろぺろと舐めあげ綺麗にしてから私はねだった。 「食べさせてください……イチゴ」 さすがにもう、清村さんもどうすればいいのか心得ていた。 彼の目が、2週間前のような熱く激しい獣の瞳に変わる。 だけどもう私は怖くなかった。 彼の目の中に映る私もまた、怪しく滾った眼差しで彼を見つめ返していたのだから。 イチゴを咥えたまま、清村さんが私にキスをする。 そして私と清村さんは、イチゴが砕けてグチャグチャになるまで舌と舌を絡め合わせた。 イチゴがぼろぼろになり、ほとんど原形をとどめなくなっても 私たちのディープキスは終わらなかった。 はぁはぁと息を吐きながら、私たちは口を離す。 「メイ……いいか?」 清村さんが鼻息を荒くしながら私に問いかける。 「今度は……」 私は肩を震わせながら呟く。 でもその震えは、2週間前のときのように恐怖を感じていたからじゃない。 「今度は……」 優しい彼はそんな私の様子に気づき瞳が少し寂しげになっていく。 違う違う違う違う! 怖いんじゃない。 私たちはこれから、本当の意味で結ばれる。 その喜びを抑えられず、私の体は震え続けているだけなのに。 「怖いのなら……やめようか?」 私は飛びつくように身を離そうとした彼の体に寄りかかる。 言わなきゃいけない。 自分の伝えたいことを。 タマさんのような強い心で。 「今度は優しく……優しく抱いてください…………」 次話へ進む
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どれだけ前日の部活で疲れていても、 土曜日の朝は絶対に早く目を覚ます自信があった。 隣町のケーキ屋「メイプル」で一日に30個限定でしか作られない 特製ショートケーキを買うためなら、 筋肉痛の体で10キロ自転車をこぐことも 開店1時間前から行列に並ぶことも全然苦にはならない。 それだけメイプルの特製ショートケーキは、反則的においしいかった。 (でも……今日は、並ぶ人がいきなり増えたような……) 最前列にいる金髪の不良の人と目が会いそうになって顔を背け、 こそこそと行列の最後尾に並ぶ。 あの不良の人は常連さんで何度か顔を見たことがあるが、 彼以外で列の先端にいる人はほとんど知らない人ばかりだった。 口コミで有名になってきているのだろうか? だとしたら朝起きる時間をもっと早くしなくちゃいけないかな。 ため息を吐いていると5人ほど先に並んでいた 見知った顔の女性が話しかけてきた。 「小川さん、危なかったですね~。ちょうどあなたの場所が30人目ですよ」 「あ、安藤さん、おはようございます」 眠たそうな目を擦る彼女の名前は安藤優梨。 まだこのお店の行列がこんなに長くなかった時に知り合った、剣道の先輩だ。 その日は今日のように午後から部活があって、 ケーキを買った後家に帰って着替える暇がなかったので 制服で竹刀を持ったまま行列に並んでいたら、 安藤さんに声をかけられた。 高校と学年は違っても同じ部活をしていてケーキ好き (正確には安藤さんはスイーツ全般が好きらしい) という共通点のおかげですぐに意気投合し、 今では週に何度かメールをやり取りするぐらいに親しくなっていた。 「どうも全国ネットのテレビ番組でここのことが紹介されたみたいで、 今日は特に行列が長くなったみたいです。危なかったですね~」 あたしの後ろに店員さんが『本日特製ショートケーキ売り切れ』 と書かれた立て札を置くのを眺めながら、 ちょっぴり顔を斜めにした安藤さんが欠伸をした。 オレンジのノースリーブセーターの端から伸びた二の腕や 若草色のプリーツスカートの下から除く白く細い足には スポーツをする人らしく均整の取れた筋肉がついていて、 露出は抑えられているのにすごく健康的でどこか大人びた色っぽさを かもし出している。 そんな安藤さんが成明の制服を見てますます首を斜めにかしげる。 「おや、今日も午後から部活ですか?」 「ええ、多分走り込みをさせられるかと」 「へー、それはご苦労様ですね~。 ここへの往復だけで結構な運動でしょうに」 「でも、その分運動後ケーキをおいしく食べれるんです」 「ふふふ……」 にか~~と、彼女が笑った。大きな目と端正な顔で笑いかけられると、 同性なのに思わずどきりとしてしまう。 「あの……何かおかしなこと言いました?」 「いえいえ……ただ、少し前まで小川さんが部活のことを喋る時は いつも愚痴か悩み事ばかりだったので…… 随分楽しそうに部活のことを話すようになったなあと」 「ああ、……確かにそうでしたね」 部活は苦行以外の何物でもなかった。 あの時彼女と出会うまでは。 「今も、好きかどうかはわかりませんけど。 でも、部活をするうえでの目標ができたんです」 「それはそれは。いいことだと思いますよ」 それからは部活の先輩のことや、好きな音楽のことや、 学校で起きた面白いことなど他愛のない話をして時間をつぶした。 いつものように楽しい時間が過ぎ、 いつものようにおいしいケーキを買えるはずだった。 あの時事件が起きなければ。 「それでそのなくなったメガネがどこにあったかというと…… なんだか前がうるさいですね~」 おしゃべりをやめ前を見ると、列の最前列で あの不良の人とどこからか現れた中年の女の人が何か言い争いをしていた。 「……どこに目をつけてるの?」 「……だから、こんなものゴミと間違えるだろ?」 10メートル以上離れた場所まで聞こえる争い合う声は、 二人の興奮に比例してだんだんと大きくなっていった。 「朝っぱらから元気ですね~。うざいぐらいに」 「安藤さん、聞こえちゃいますよ!」 慌てて安藤さんの口を閉じさせようとした瞬間、 いきなり不良の人がこちらを指差した。 「あ、あの、ごめんなさい」 その剣幕に気圧されて何が起きているのかも分からず小さな声で謝ったが、 彼は大声で女の人にまくしたてた。 「あの子がかわいそうだろうが!」 それが、彼――清村さんと始めて言葉を交わした瞬間だった。 「そんなこと言われてもあの子が並ぶより先に 私がここに荷物を置くのが早かったんだから あの子がケーキを買えなくなるのは当たり前でしょう」 「だからさあ、めちゃくちゃだろう。荷物置いてたって こんなビニール袋ひとつ置いてただけじゃ誰も気づかねーっての」 不良の人が指差すアスファルトの上を見ると、 拳骨サイズのコンビニ袋がちょこんと置いてあった。 ぱっと見ゴミだと思ってもおかしくない大きさだ。 「どうやらあのおばさん、開店まで列に並ぶのがめんどくさくて 袋ひとつおいてどっかに行ってたみたいですね。非常識な」 安藤さんがやれやれとため息を吐く。 「だいたいなあ、一度トイレに行くぐらいならすぐ戻ってこれるだろ? 俺が見てた限りあんたは2時間近く列に並んでなくて、 それでいまさら列に堂々と割り込もうなんざちょっと常識がなさすぎだろう」 女の人は不良のお兄さんを馬鹿にするような目で見上げる。 「あなたのようにふざけた髪の色をした学生に常識をどうこう言われたくはないわ」 「な……俺の髪の色はかんけーねーだろ!」 不良のお兄さんの顔色が見る見る真っ赤になる。 しかし女性は全然ひるまず、大きな鼻の穴をふんと鳴らした。 「大体あの後ろの女の子も……なんだかねぇ、こんな朝早くから学生服で ケーキなんか買いに来て。学校に行く前からこんなとこで油売ってるなんて どうせろくでもない学校のろくでもない子なんでしょ。 全くうちのレイミちゃんの爪の垢でも飲ませてあげたいわ」 (なに言い争ってるんだろう) (なんかあの女の子が悪いみたいだ) (いや、あのおばさんが無茶言ってるだけだろ) (どっちでもいいよ) (もう開店時間過ぎてるぞ) (店員も困惑してるな。さっきおばさんが店員に「整理券配らない店も悪い」って文句言ってたぞ) (早くどっちか折れろよ) といったうんざりするような口調のヒソヒソ声とともに、 列に並んでいた人たちの視線が私に集まるのを感じた。 同時に、私の顔の温度が上がる。 「なんだか、むかつきますねー。……小川さん?」 私のせいで、皆がケーキを買えない。 「あの、安藤さん。私、帰ります」 「小川さんは、悪くないですよ?」 でも。 私がいなくなれば、この騒動も落ち着く。 私は、力なく笑う。 「あの、学校に持っていくもの忘れましたから。 だから、帰らないと」 まるで言い訳するように喋ると、私は振り向いて駐輪場へ向かって駆け出した。 背後から聞こえる不良のお兄さんの叫び声を振り切るようにして。 私はいつだって言いたいことが言えずしたいことができない子だった。 「運動部になんか入りたくない」と言えず流されるまま剣道部に入り、 友達に嫌われたくないから厳しい剣道部を辞められず、 そしてその友達に裏切られた時も何も言い返すことができなかった。 ――少しでも剣道を続ければ、私は変わることができるかもしれない―― 室江高校との練習試合でタマさんに会って、 少しでも彼女に近づきたくて厳しい練習を続けてきて。 あんなふうに強くなれなくても、何も言えなくて何もできない私より、 少しでも強くかっこよくなれるかもって思った。 (でも、結局私は――) 何も変わっていない。 何も変われない。 自転車のぺダルがいつもより重い。 ろくに汗をかいていないのに口の中がしょっぱい。 いつもなら一息で駆け上がれる傾斜20度の坂道がまるで壁のようだ。 坂の途中でふらふらとアスファルトへ足をつけた瞬間、大きな手が私の腕を掴んだ。 びっくりして振り向いた私の目の前にいたのは、さっきの不良のお兄さんだった。 顔がさらに真っ赤になって全身汗だくで、私の物よりふた周りは大きい自転車にまたがって、 彼はぎろりとこちらを睨んだ。 「へー、ふへぇー、よ、ようやく捕まえ、ぐふぇっ、ぐへっ」 咳き込みながら何事か喋っている。よく聞き取れないけど。 どうやらかなりの全力疾走で自転車をこいできたみたいだ。 「あ……あの…………」 わけがわからなくて言葉の出てこない私の腕を掴んだまま、 彼は私に自転車を降りるよう促した。 そのまま私は彼に半ば強引に引っ張られて、近くの公園のベンチに腰を下ろしていた。 30センチも背の高いよく知らない男の人に連れて行かれて 悲鳴ひとつ上げなかったのは、今思えば自分でもかなり危なっかしいことだと思う。 でも、昼の明るい時間と「メイプル」での彼の行動が、 私の中の彼に対する恐怖心を少なからず鈍らせていたのかもしれない。 それとも彼は私に理由ない暴力を振るう人ではないと、 あの時本能で悟っていたのだろうか。 「ほら、これ」 お兄さんの差し出したケーキの箱に、私は目を丸くする。 「あの……」 「食えよ」 箱をがさがさ開けながら、どこから取り出したのか ナイフとフォークを差し出しながらお兄さんは続ける。 「え、そんな、そんなの貰えません!」 「駄目だ。むしろ食わなきゃいけないんだよ」 「え……?」 「あのなあ、この特性ショートケーキはなぁ、 ちゃんと価値のわかる人間か、 それなりに対価を払った人間が食わなきゃ駄目なんだよ。 一流ホテル御用達メーカーの超高級クリーム。 フランスの本場レストランで修行したパティシエが作った最高のスポンジ。 有機栽培で一つ一つ丹念に作られたイチゴ」 なんか説明しているお兄さんの目がきらきらと輝いてきた。 よっぽど好きなんだな、特性ショートケーキ。 「とにかくだ、そーいうもんはちゃんと甘い物好きで 毎週買いに来る人間こそが食うべきだ。食えるべきなんだ。 それをあのばばぁテレビ見て来たんだろーが とにかくいちゃもんつけて俺の髪を馬鹿にしたり おとなしい子供をろくでもないとか言ったりふがあああぁぁぁぁ」 「あ、あの、落ち着いて、ふむぅ」 いきなり口の中にケーキの切れ端を突っ込まれて、私は目を丸くした。 だけどそれは一瞬で、私の口内に広がる甘美で芳醇なケーキの味に、 今までの態度を翻し私はゆっくりとそれを咀嚼する。 ああ、美味しい――――。 「な、うまいだろ」 私の口の中にフォークとケーキを突っ込みながら、お兄さんが笑いかける。 この味には、逆らえない。逆らいようがない。 それだけメイプルの特製ショートケーキは、反則的においしいかった。 「だから、遠慮すんなよ」 でも今日の特製ショートケーキは、いつものより もっともっと美味しい気がするのは、私の気のせいだろうか? 「中学生は高校生の言うことを聞いとくもん」 思わず私は口の中のショートケーキを噴きだしてお兄さんのせりふを止めてしまった。 「……っ、あの、よく間違われますけど、私は高校生で……」 目の前で私の噴きだしたケーキまみれになったお兄さんの顔を見て、 私の頭はお兄さんの顔より真っ白になった。 おいしいケーキと苦い恋-2